アスペルガー大学生

略歴:1999年生まれ。北海道出身。東京に住んでいたこともある。中学校2年生のときに自閉スペクトラム症(ASD)、社交不安障害(SAD)と診断される。2022年現在診断名はアスペルガー症候群(ASD)のみであり、スキゾイドパーソナリティ障害の可能性もあると考えている。小学生時代に2度の引っ越しと両親の離婚を経験している。一年の自宅浪人を経て北海道大学に入学する。2018年2月28日からアマゾンkindleに電子書籍配信。Twitter:@ShotaroKindle

キルケゴール『死に至る病』:自己嫌悪感は自己愛から生じる

 

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キェルケゴール『死に至る病』 (哲学書概説シリーズ) [ 山下秀智 ]

 

キルケゴールの「死に至る病」とは「無条件に自分を否定する病」つまり「自己喪失」ではないか?

 

人間とは精神である。精神とは何であるか。精神とは自己である。自己とは自分自身に関わる一つの関係である。

出典:セーレン・キェルケゴール - Wikiquote

 

自己肯定感を捉える3つの視点

 

2019年8月6日、自己肯定感がTwitterトレンド入りしたことがきっかけで、「自尊心」や「自己肯定感」が大きな話題になりました。

 

その中で

 

「理想の自分を意識しよう」

「ありのままの自分を受け入れる」

「自己肯定感は『自分はすごい!』と思えること」

「自己肯定感が高いとナルシストというわけではない」

 

など多くの意見が見受けられましたが、そもそも「自己肯定感」という言葉自体が包括的な概念になっていて、解釈が人によってまちまちなのが現状らしいです。

 

「自己肯定感」という言葉は1994年に高垣忠一郎によって提唱された[19]。高垣は自身の子どもを対象にしたカウンセリングの体験から、当時、没個性化が生じていた子どもの状態を説明する用語として「自己肯定感」を用いている[19]。

出典:自己肯定感 - Wikipedia

自己肯定感が提唱されてから年月が経ち人々に広まり多様な解釈がなされるようになった。「自己効力感」「自己有用感」「自己効用感」などが「自己肯定感」として語られる事があるが、このような語られ方をするだけでは不十分だと考える、と高垣は述べている[20]。

出典:自己肯定感 - Wikipedia

 

どれが正しい、間違っているという話ではなく、それぞれが自己肯定感を捉える観点であると考えるものだと個人的に考えています。

 

その観点を挙げるとするなら

 

  • 自己愛(ナルシシズム
  • 自負心(プライド)
  • 自己受容(アクセプタンス)

 

の3つだと思います。

 

今回はこの3つの観点から「自己肯定感の重要性」について考えたいと思います。

 

自己愛(ナルシシズム

自己愛とは無条件に「自分は素晴らしい」と思うことです。自己尊大・自己陶酔・万能感ともいえるでしょう。


自負心(プライド)

「自分は自分らしく生きている」「自分の選択は間違っていない」という気持ち。誇り・自己尊重・独立心ともいえるでしょう。


自己受容(アクセプタンス)

自己受容は「自分はこれでよい」と思うこと、現時点での自分、ありのままの自分を受け入れることです。別の表現では、「自己満足」とも言えるでしょう。

 

「自己肯定感」については前の記事でも紹介しましたが、ある意味一番重要といえる「自己受容」が軽視されがちなのでは、という印象があります。

 

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参考:自己愛・自負心・自己受容の組み合わせ8パターン

 

あくまでも個人的解釈です。

 

自己肯定感がある人(自己愛:〇、自負心:〇、自己受容:〇)

「自己受容」「自己表現」「自己主張」が出来ていて、ストレスに適切な対処が出来ている人。

自己肯定感がない人(自己愛:✖、自負心:✖、自己受容:✖)

自分を見失っている、常にやり場のない怒り、焦燥感、絶望を抱えている。

自己愛しかない人(自己愛:〇、自負心:✖、自己受容:✖)

行動力は高いが失敗しても改善しようとしない。自分に酔っている、ナルシスト、堂々としていて最初は好印象でも後から嫌われる。

自負心しかない人(自己愛:✖、自負心:〇、自己受容:✖)

意識高い系、面倒くさい人。

自己受容しかない人(自己愛:✖、自負心:✖、自己受容:〇)

向上心がない、行動力に欠ける。

自己愛が欠けている人(自己愛:✖、自負心:〇、自己受容:〇)

理想の自分を持っていない、承認欲求がない。

自負心が欠けている人(自己愛:〇、自負心:✖、自己受容:〇)

結果のためなら何でもする人、言っている内容ではなく言っている人の肩書きを見る、モラルがない。

自己受容が欠けている人(自己愛:〇、自負心:〇、自己受容:✖)

他者本位、功績を挙げて他人に認められることでしか自己肯定感を生み出せない、承認欲求が異様に強い。

 

嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え [ 岸見一郎 ]

 

 

「自己受容」は軽視されがち

 

自己肯定感というと

「自分の短所ではなく長所を見よう」「誰にでもすごいところがある」というニュアンスで使われがちな印象がありますが、それは本来の自己肯定感とは違う考えであると個人的には思います。

 

「今の自分に満足してはいけない」という「自己愛」の考えも重要だとは思いますが、自己愛とは「今の自分の価値を否定する」考えなのです。

 

「自己愛」を重視して「自己受容」を軽視することは本来の自己肯定感ではないでしょう。

 

「現状の自分を受け入れる」ことをしないで努力することは現実逃避に過ぎないのではないでしょうか。

 

自己の受容は、変化のための条件であり、善悪といった判断をはなれ、事実を事実として受け入れ、恐れがあることを受容し、あまりにも受け入れられない時には受け入れられないことを受け入れるということである[8]。存在を認めていない恐れは、解決も克服もできないからである[9]。悲しみや喜びだけでなく、才能といった長所も、挑戦のための責任や他者からの敵意のために受け入れにくいことがある[10]。

出典:自尊心 - Wikipedia

 

 

自己愛と自己受容:自己嫌悪感は自己愛から生じる

 

  「自己愛」の観点では「理想の自分」を評価しているだけであり、現状の自分のことはむしろ否定的にとらえている。一方で、「自己受容」は現時点の自分を「これはこれでよい」と捉える観点である。

 


自分のことを自己愛的に高く評価し、高水準の期待や理想を自分に寄せている人は、自己嫌悪感を強く感じる傾向がある。


つまり「自己嫌悪感は自己愛から生じる」のです。


「自己愛」「自己受容」はある意味対立する概念なのかも知れませんが、他人から容易に傷つけられる、という点では共通しているとも言えるでしょう。

 

理想の自分を持つ、向上心を持つことで、「他人からの評価」よりも、「自分は自分のことをどう思うか」を重視できるようになると。

 

  • 自己否定、自己嫌悪から自己分析力が育まれる
  • 自己肯定、自己効力感(自分の可能性を認知すること)から行動力が育まれる

 

という点ではどちらも欠かせないものです。

 

その起源には、幼いころに大人から尊重され、価値を認められたか、励まされたかといったことがある[2]。しかし、最も重要な影響があるのは、自分自身で選択したということである[1]。言い換えれば、自分の可能性を実現したいという気持ちから、生き方を変えるということから自尊心が育まれていく[1]。

出典:自尊心 - Wikipedia

 

【自己肯定感が注目される理由】

SNSの普及」や「アクティブラーニングの推進」が象徴するように、集団の一員としてではなく「個人の力」が重要視されるのが現在の潮流です。その中で重要性が高まっている「自己分析力、行動力」を育むうえで「自己肯定感」は重要な概念だろうと個人的に考えています。

 

【対立する概念】自己有用感と自己肯定感

 

  • 自己有用感は、他人からの評価から自己価値を見出すこと
  • 自己肯定感は、自己評価から自己価値を見出すこと

 

「自己受容」が軽視された結果、自尊心、自己肯定感というと

 

「他人の評価を気にせず、嫌われることを恐れない人」

 

を連想してしまう方が多いのではないでしょうか。いわゆる「意識高い系」と揶揄されている人々のことですね。


逆に「意識高い系」を嫌う人はそういう人を馬鹿にするだけで普段何も考えていないのか、というとそういうわけではありません。「自己肯定感」よりも「自己有用感」を重要視しているに過ぎないのです。


前に相反する概念は対立しやすいと述べましたが、「どちらかしか持っていない」ということはなくとも、存在を無視しては「ないも同然」なのです。

 

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【自尊心に関する研究】発達障害と自己肯定感の因果関係

 

参考までに、「自尊心を高める有意性」について興味深い内容があったので紹介させて頂きます。

 

先ほど紹介した通り、自己肯定感(self-affirmation)は1994年に高垣忠一郎によって提唱された概念です。しかし、自己肯定感はセルフ・エスティーム(自尊心)とほぼ同じ意味で使われていることから、自己肯定感を論じる際に自尊心研究に対する批判を考慮する例が多いらしいです。

 

1970年代のアメリカでは、自尊心の低さがあらゆる社会問題の根底にあるという考えが統計学的に支持されたことから「自尊心研究」が注目を集めていました。当時は「自尊心」が社会心理学の主流だったそうです。

 

自尊心研究の初期の第一人者の1人であるロイ・バウマイスター(英語版)によると、バウマイスターが社会心理学者として研究を始めた1970年代には、自分の能力と価値観に自信がある人ほど幸福になって成功するという研究があったため、自尊心関連の研究は当時の主流であった[17]。

出典:自尊心 - Wikipedia

 

 

ですが、1980年代になると「自尊心よりも自己コントロールの失敗が主要な社会病理である」という考えが支持されるようになっていきました。

 

1970年代のアメリカでは前述通り自尊心の研究が栄えていたが、1980年代になるとマシュマロ実験に代表される自己調節(自己コントロール)(英語版)に多くの心理学者が目を向けるようになった[30]。その後の研究で、自己コントロール能力が生む利益が総合的に評価され、「自己調節の失敗こそが、現代における主要な社会病理である」と結論付けられた[31]。この研究では、高い離婚率や家庭内暴力や犯罪、その他の問題の一因となった多くの例が挙げられている。

出典:自尊心 - Wikipedia

 

その後の研究で、自尊心よりも自己コントロール能力・自制心の有意性が注目されるようになったことからアメリカの自尊心ブームは収束しました。

 

  • 自己肯定感と学業の成績は相関関係にあるが、成績が高いから自己肯定感が高いだけで「自己肯定感が高いから成績が高い」というわけではない。
  • 結局「自尊心の低さ」があらゆる社会問題の根底であるという科学的根拠は見つからなかったが、自尊心の持つ性質が明らかになった。
  • 幼少期から精神科に通院し薬に依存することを悲観的に捉えることで自己肯定感低下に繋がることは考えられる。
  • 自尊心が高いアメリカ人生徒の成績は自尊心が低い日本人・韓国人よりも成績が遥かに悪い。
  • 自尊心が高い人にはナルシストが多い。

 

マシュマロ実験 とは

 

マシュマロ実験は、「衝動的欲求や感情をコントロールする『自制心』が社会的成功を収める上で重要である」

ということに注目したことで有名な実験とのことです。

 

マシュマロ実験(マシュマロじっけん)、またはマシュマロ・テストとは、子ども時代の自制心と、将来の社会的成果の関連性を調査した著名な実験。スタンフォード大学の心理学者・ウォルター・ミシェル(英語版)が1960年代後半から1970年代前半にかけて実施した。マシュマロ実験という名前ではあるが、報酬はマシュマロの代わりにクッキーやプレッツェルが使われることも多くあった。

出典:マシュマロ実験 - Wikipedia

新訳 不安の概念 (平凡社ライブラリー) [ セーレン.キルケゴール ]

 

 

 

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